ダブルループ学習



ロジカルシンキングや問題解決には様々な概念や技法があります。ロジックツリー、マトリクス、演繹と帰納、KJ法、などなど。これらは基本的には現状を分析し、そこからの打ち手を立案し、打ち手を行動に移した結果を検証する際に活用されます。また結果結果検証を次の打ち手立案に反映し、PDCAサイクルを回すことが奨励されます。



上述したコンセプトが重要であることには異論が無いはずです。しかし、それが全てでは無いことにクリス・アージリスは気付き、「ダブル・ループ学習」というコンセプトを提唱しました。

温室をヒーターとサーモスタットで温め、胡蝶蘭を咲かせようとするたとえ話で解説しましょう。温室の温度が0度であることが現状分析でわかったとします。これでは胡蝶蘭は枯れてしまいそうです。そこで18度という目標を設定し、ヒーターで温めます。行動した結果、つまり温度を一定時間後に測定します。それが10度だったとしましょう。さらなる打ち手としては「温め続ける」が選択されます。次に測定した温度は20度だったとします。さらなる打ち手としては「ヒーターを切り、温度が下がるのを少し待つ」が選択されます。そして温室は目標の18度に保たれるわけです。これをシングル・ループ学習と呼びます。

ところが1年たっても胡蝶蘭は咲きません。シングル・ループ学習の成果により、温室はきちんと18度に保たれているのに何がいけないのでしょうか。そこで「背景にある変数」の存在に気付くようになります。実は当然のことと思っていた18度という温度設定が誤りであり、胡蝶蘭の適温は20度~25度であったことに気付くわけです。こういった「背景にある変数」に気が付くプロセスをダブル・ループ学習と呼びます。



「背景にある変数」の具体例としては、真の目的、真の原因、制約条件、暗黙の前提条件、環境変化といったものがあげられます。いずれも直接捉えることが難しく、いったん仮置きのプランを実行してPDCAを回す中で、わかったり、気が付いたりするものといえます。

「背景にある変数」に興味を示さない学習、つまりシングル・ループ学習の問題点は2つあります。1つ目は上記の温室の例でも述べたように「間違った到達目標を上手に実現してしまう」ことです。例えば、赤字の事業に対して経営資源をつぎ込んでてこ入れをする場合、背景にある変数にまで目を向けなかったため、「本来はその事業は撤退すべきだった」ことが後になってわかり、後悔されるといったことがおきます。

2つ目の問題は背景にある変数に目を向けない限り、「打ち手が付け焼き刃なものになり、本質的な改善につながらない」ことです。例えばAさんという課長が部下たちからの360度評価を受けたところ、部下を叱るという行動が弱いことがわかったとします。Aさんは大いに反省し、今後は必要な時には部下を叱ることを決意します。このようなシングル・ループ学習の効果は限定的です。数週間は部下を叱ることを心がけていたAさんも、いつの間にか元の「部下を叱れない課長」にもどってしまった、といったケースが頻発します。

ダブル・ループ学習を行うことが出来れば、上記の場合のようなケースに本質的な変革が起きます。A課長が部下を叱れないということの背景にある変数に目を向けます。例えば、「業務遂行だけに目が行き、自分でやってしまったほうが早いし確実だと思っていた」「部下の成長というテーマへの関心が薄かった」「自分も上司に叱ってもらって成長したことを忘れていた」といったことに気付いたとします。今後のA課長がリーダーとして一皮むけることは想像に難くありません。

背景にある変数に気付くこと、すなわちダブル・ループ学習を行うことは必ずしも容易ではありません。しかし、その概念を知っておくだけでも、シングル・ループ学習の弊害を避けられる確率は高まるでしょう。
最終更新 ( 2010/11/02 19:38 )