失敗学のすすめ

【書籍データ】
書 名:失敗学のすすめ
著 者:畑村洋太郎
出版社:講談社
価 格:1680円
    http://www.amazon.co.jp/dp/406210346X/

【要約・解説】

現代の日本社会には、失敗を恐れ、恥じ、隠そうとする文化があると言われています。その背景には、明治維新以来、常に欧米の真似をすることで発展し、独自で創造することを怠ってきたために、創造の過程において失敗を真摯に見つめ、謙虚に学ぶという文化やシステムが生まれなかったことにある、と著者は主張しています。

しかし実際には、「失敗は成功の母」という言葉もあるとおり、失敗は必ずしもネガティブな要素ばかりではありません。失敗の起こった原因や背景をきちんと把握することにより、成功につながる架け橋ともなり得るのです。

 

 著者は、まず本書の中で「失敗」を「人間が一つの行為を行うとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」と定義づけます。

一般に辞書で「失敗」と引いてみると「やりそこない、しくじり」などと表現されていることが多いのですが、「失敗学」とは、失敗を否定的にとらえるのではなく、むしろプラスにとらえて有効利用しようという考え方なのです。

 

まず、失敗を活用してそこから何かを学ぶために失敗を分析し、その原因や種類を正しく理解する必要があります。

(1)  失敗の原因を分類する

失敗が起こった時、まずはその原因は何だったのか、を振り返ることが重要です。














図は、世の中の失敗の原因を大きく10分類に分けたものです。番号が大きくなるにつれてより社会性を帯びていき、失敗の規模、与える影響も大きくなります。

何か失敗が起こってしまった時には、この図を思い描き、失敗の原因がこの図のどれに当てはまるのか、考えてみましょう。

そうは言っても、現実には、失敗の原因は必ずしも1つであるとは限りません。特に複数の部門や人間がかかわる場合には、連携がうまくいかなかったり、関係の悪化が失敗に結び付いてしまったり、複数の原因が存在することもあります。

また、必ず目に見えるものであるとも限りません。失敗の原因が社会性を帯びるにつれ、表面的な原因や個人的な原因に転嫁されてしまうケースが多々あるからです。そしてそれは大企業のように組織が大きい程起こり得ます。

 

失敗の原因の本質を見抜くためには表面だけをとらえずに、その複雑性を理解するようにしましょう。本質が見抜けない以上は根本的な解決につながりません。

 

(2)  失敗の種類を理解する

失敗は以下の2種類に分けることができます。

  良い失敗

未知との遭遇による失敗。成長過程で必ず通過するもので、その失敗の経験がその後の

飛躍につながる。

  悪い失敗

人間の怠慢による失敗。単なる不注意や誤った判断によるもので、その後の成長の糧に

ならない。周りに悪影響を与える。

 

失敗は必ずしも悪いものではなく、避けられない①の良い失敗から物事の新しい側面を発見し、②の悪い失敗を最小限に抑えることが重要です。言い換えれば、いかに効率良く失敗するか、避けられない失敗を忌避するのではなく、そこから成功へつなげるポイントをいかに見出すのか、が重要なのです。

前述の失敗の原因の図の中で見ると10番の「未知」が原因の失敗は、良い失敗と言えるでしょう。

 

では、悪い失敗の予防方法はあるのでしょうか。

 

ハインリッヒの法則と呼ばれる法則があります。

「1件の重大災害の陰には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその陰にはケガまではないものの300件のヒヤリとした体験が存在している」という法則です。

アメリカの損害保険会社にて調査を行っていたハインリッヒ氏が統計学的に計算し、潜在的な労働災害とそれが顕在化する確率をいわば経験則から導き出したものです。

 

著者はこれをもとに、「失敗のハインリッヒの法則」について述べています。
「新聞沙汰になるような大きな失敗が1件あれば、その陰には必ず軽度のクレーム(顧客からの不具合の指摘)程度の失敗が29件は存在し、さらにはクレーム発生にはいたらないまでも、社員が『まずい』と認識した程度の潜在的失敗がその陰には必ず300件ある」というものです。

 













 

ある日突然大きな失敗が起こるということはなく、その背景には小さな失敗がたくさん存在しているのです。

日頃より、その小さい失敗から目を背けることなく対処していけば、大きな失敗は避けられるはずです。

大きさに関わらず、失敗には常に真摯に対応するようにしましょう。

 

 また、失敗の情報を組織内で共有する、過去の事例を学ぶ、など他者の失敗を疑似体験することで学び自分のものにして活用することも非常に重要です。特に、失敗の情報は隠れたがり、伝わりにくく、時間の経過と共に衰退するという特徴があるため、データベースを作るなど失敗例を効果的に伝承することが重要です。その時、以下の6項目を記すと良いと著者は書いています。

  事象 ②背景 ③経過 ④原因 ⑤対処 ⑥まとめ(今後に活かすための総括) 

 

【我々の考察】

この本の著者は機械工学の教授であるため、本の中の事例がどれも設計、製造に関わるものになっており、どんな分野にも応用可能と言われてもイメージが湧きにくいものの、会社組織、個人においても大いに活用できる考え方です。

どのような失敗が起こったとしても、臭いものに蓋をしてしまうのか、または目を背けることなく真摯に対応し、その原因や種類を理解しようとするのか、1つの失敗から得るものを考えると、前者と後者では全く違います。
言い換えるのならば「良い失敗」と「悪い失敗」の区別が重要なのではなく、失敗後に「良い対処」をするか「悪い対処」をするかが重要であるといえます。
もちろん失敗は起こらないに越したことはありませんが、もし起こってしまったならば、自分自身の成長の糧とできるように徹底的に分析し、理解する、その姿勢を持つことが大切です。必ずや自分自身の次なるステップに活用されるはずです。

とはいえ、ビジネスのスピードが上がっている現在、いくら失敗を乗り越えることで成長すると言われても、失敗を全て経験するというのはあまりにも非効率です。過去の事例や他社、他部門、他人の失敗事例から自分自身も学ぶことが重要です。他者の失敗を自分のものにすることによって、効率よく成長していけるように心がけましょう。

同様に、自分の失敗は隠すことなく情報公開し、その情報が他者の成長を促し、その相乗効果によって全体として底上げされていけば理想的です。

 本書は、今となっては目新しいことは少ないかもしれません。多くの人が本書を読んで新たに学ぶことは少ないでしょう。また、論理的、体系的に著された本であるともいいがたい部分も散見されます。ただし、この本が日本の社会に与えた影響は非常に大きいものがありました。強烈なメッセ―ジを日本社会に与えた歴史的書物である点において、本書は名著であると言えます。