イノベーションのジレンマ

【PR】このコラムの著者たちがマトリクス(田の字図解)についての秘伝をキンドルにて出版しました【PR】


【書籍データ】
書名:イノベーションのジレンマ
著者:クレイトン・クリステンセン
出版社:翔泳社
価格:2100円
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798100234/

【要約・解説】

以前は「優良企業」と言われていた会社がその地位から転落してしまうことは珍しくありません。その原因としては、官僚主義、慢心、血族経営による疲弊、貧困な事業計画、近視眼的な投資、能力と資源の不足、単なる不運などがあげられます。が、この本で著者が指摘しているのは、「優良企業の優れた経営者が健全な意思決定をすることが、その企業を失敗へと導く」というジレンマなのです。古くから日本にある言葉で言うと「盛者必衰の理」に相当します。

上記のような現象は、製品の性能を改善する「持続的技術」ではなく、飛躍的な革新をもたらす「破壊的技術」が登場する際におきます。この本は1997年に出版されたものなので、2009年の事例で言うとすると、「百貨店の衰退とネットショップの台頭」「マイクロソフトの失速とグーグルの台頭」「既存アパレルメーカーの苦戦とユニクロの快進撃」などが相当するでしょう。

優良企業の優れた経営者が健全な意思決定をすることがその企業を失敗へと導く理由を著者は5つあげています。

1 企業は顧客と投資家に資源を依存している
破壊的技術は初期においてはごく一部の特殊な顧客にのみ求められるものです。メイン顧客が求めないアイデアを切り捨てる仕組みが優良企業には整備されているため、破壊的技術へ取り組むことが出来ないわけです

2 小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
破壊的技術は初期においては小さな市場規模しかありません。優良な大企業が真剣に検討するようなビジネスでは無いわけです

3 存在しない市場は分析できない
優良な大企業は市場を分析して合理的な意思決定をする能力を保有しています。分析や予測が出来ないかぎりは、新たな領域に踏み出そうとしません。その姿勢があだになり、破壊的技術へ取り組む機会を逸するわけです

4 組織の能力は無能力の決定要因になる
著者は個人の能力と組織の能力は別だと考えています。いくら優秀な人材であっても無能力な組織に配属してしまえば力を発揮できません。組織の能力とは「仕事のプロセス」と「価値基準」によって決まります。過去に有効であったプロセスと価値基準は、破壊的技術の世界では失敗をもたらすのです。また著者は「プロセスと価値基準には柔軟性は無い」と考えています

5 技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
確立された市場では魅力のない破壊的技術の特徴が、新しい市場では大きな価値として認識されることがあります。確立された市場を「正しく」判断する優良大企業には、破壊的技術を採用することは困難です

では優良な大企業の経営者はどうすれば良いのでしょうか。「盛者必衰の理」としてあきらめるしかないのでしょうか。著者は5つの対策を提言しています。

1 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる
2 組織の規模を市場の規模にあわせる(小さな組織に任せる)
3 分析して成功するよりも、失敗に備えて犠牲を小さくし、試行錯誤から学ぶ
4 主流組織の資源の一部だけを利用し、プロセスや価値基準を共有しないようにする
5 破壊的技術の商品化には新しい市場をみつけるか新たに開拓する

著者が直接触れているわけではありませんが、従来の経営コンセプトである「ドメインを適切な広さでとる」「PPMでの問題児のように新ビジネスにも資源配分する」「参入障壁を意図的に築く」などは持続的技術の世界では依然として有効です。しかし破壊的な新技術の前では別の対策をとる必要があるとクリステンセン教授は提言していると解釈できます。

【我々の考察】

過去の優良企業がその地位から転落する。確かにその事例には枚挙に暇がありません。そして、その原因を「戦略不在」「放漫経営」「判断ミス」などと指摘する識者は多くいました。この書籍の斬新さは、それを「優良企業の優れた経営者が健全な意思決定をすることこそが、その企業を失敗へと導く」とした点です。

この考えはあたかも「人間の死が避けられない」かのように、「優良企業の転落は避けられない」という運命論のようにも聞こえます。しかし著者はそれを避けるための5つの指針を示し、経営者にとっての光を照らしてくれました。

我々は5つの処方箋について考えを広げてみました。顧客、あるいは社会全体の立場からみるとどうでしょうか。「マイクロソフトの失速とグーグルの台頭」を例にとりましょう。タイムマシンに乗って2000年ごろにさかのぼり、マイクロソフトが5つの処方箋を実践してグーグル的なサービスを提供したとしたらどうでしょうか。顧客にとってはそれがマイクロソフトであろうがグーグルであろうが社名は関係ないはずです。大事なのは提供される商品・サービスの中身です。となるとクリステンセン教授の提言は優良大企業の経営者にとっては重要かもしれませんが、顧客を満足させたり社会全体を発展させるものではないと言えそうです。

もうひとつ指摘しておきたいことがあります。仮にマイクロソフトがタイムマシンで過去にさかのぼり、5つの提言を実行してグーグル的なサービスを提供し、失速を避けることが出来たとしましょう。その会社は本当にマクロソフトなのでしょうか。確かに社名や株主構成はそうでしょう。でも過去の事業からの資源は一部しか利用せず、プロセスや価値基準は全く新しいもの。そして市場も新たに開拓した市場。これだとマイクロソフトがいくつかのネットベンチャーにベンチャーキャピタル的に投資し、そのひとつがグーグルだったというケースと殆ど違わないことになります。死におびえる人間に対して「ご安心ください。あなたが死んでも大丈夫です。皮膚の細胞のDNAから生まれるクローン人間がこの先何世代も生き続けますから♪」と言われている状況と構造は同じです。つまりクリステンセン教授の処方箋は、本質的な意味での会社継続の打ち手にはなってないのです。

「優良企業の優れた経営者が健全な意思決定をすることが、その企業を失敗へと導く」という指摘からの前向きな教訓を引き出すとすると、それは人間の場合と同じく「メメント・モリ」なのではないでしょうか。どんな優良企業でもいずれは衰退してゆく。それを悲しむよりも「今」を大切にすることが重要です。今目の前の顧客に満足してもらう。そのために今皆で知恵を絞る。これが何よりも大切である。クリステンセン教授はそのようなニュアンスのことは一言も語っていませんが、我々はそんな教訓をこの書籍から得たように感じます。

 

 【PR】英語発音DVDを、このコラムの主催者㈱エデュケーションが発売。あなたのビジネス英語の発音をさらにブラッシュアップ!【PR】