ザ・ゴール

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【書籍データ】

書名:ザ・ゴール

著者:エリヤフ・ゴールドラット

出版社:ダイヤモンド社

価格:1,680円



【要約・解説】

 

イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラットが書いたTOC(制約条件の理論)のビジネス書です。全米で250万部を売り上げ、MBAの副読本として使われています。日本でもシリーズの合計発行部数が100万部を突破し、大ベストセラーとなりました。

本書は分かりやすい小説形式になっています。3ヶ月後に閉鎖されることになった工場の工場長である主人公が、著者をモデルとしたと思われる大学時代の恩師の助言を得ながら、工場の抱える諸問題を解決していきます。その過程では、多忙な仕事のため家庭を犠牲にしたため妻が家を出て行ってしまったり、会社での上司・同僚との人間関係に苦心したりといったヒューマンドラマが豊富に描かれており、単なるビジネス理論書というだけでなく、小説としても楽しむことができます。主人公と同じように悩み、考えながら読むことができる点が本書の人気の要因だといえます。

また、本書は、全米でベストセラーになったにも関わらず、著者の意向により日本でのみ翻訳書の発行が17年も許されなかったといういわくつきの本でもあります。その理由について、著者は解説でこう述べています。「『ザ・ゴール』が日本語で出版されると、世界経済が破滅してしまうので許可しないのだ。日本人は、部分最適の改善にかけては世界で超一級だ。その日本人に『ザ・ゴール』に書いたような全体最適の手法を教えてしまったら、貿易摩擦が再燃して世界経済が大混乱に陥る」

【我々の考察】

原書の発行が1984年とかなり昔であることも考慮し、TOCについて、経営工学や生産管理論としての言及はいたしません。しかし、本書には学ぶ価値のある考え方・エッセンスがちりばめられており、その中から3つのポイントを紹介したいと思います。

最初に「スループット会計」をご紹介します。「スループット会計」は従来の原価計算のアンチテーゼとして提唱されています。従来の原価計算に基づくと、利益は販売した売上に対応する原価(売上原価)を差引いたものとなります。例えば、売れない商品を増産した場合のことを考えてみましょう。在庫は積み増がりますが、量産することにより売上原価が下がるため、会計上の利益は増えるという事態が発生します。見せかけの「効率化」や会計利益の裏で、在庫がどんどんたまっていってしまうのです。

一方のスループット会計では時間当たり利益の最大化=「キャッシュを生むスピード」を意識します。キャッシュを生まない活動を抑制するため、売上に貢献しないラインや人員は場合によっては止めてしまいます。(※スループット会計の詳細は章末をご参照ください)

主人公の工場でも、会計上の効率性を追求して最新鋭のロボット機械を果断なく稼働させた結果、在庫が山のように積み上がっていました。主人公たちは、スループット会計の概念を用いた業務改善によって、キャッシュを増大させ、会社のキャッシュフロー改善に大きく貢献します。しかし、従来の原価計算に基づくコスト指標を達成できず、窮地に追い込まれてしまいます。主人公たちの既成概念との戦いも、本書のメインテーマの一つです。

現在では、キャッシュフロー会計が一般に広まり、スループット会計の新しさは特に感じられませんが、本書が発売された時期には、非常に目新しさのある考え方でした。

二つ目のポイントは、ヒューマンスキルです。主人公の恩師は、主人公およびそのチームに対して、すぐに答えを教えるような分かりやすいアドバイスはしません。ヒントを与えることで、自分で悩み、考えさせることによって答えを引き出します。読者もその過程において、ストーリーに沿って自分で考えることにより、学びが深くなるように描かれています。この手法は、本書の中では「ソクラテスの問答法」に例えられていますが、現代的な捉え方をするとコーチングに近い手法です。自らの知識を、部下・後輩に伝える際の実効力のある方法として参考になるでしょう。

最後のポイントは、企業内の慣習化したルールや企業文化など既成概念を打ち破るための思考法です。企業の究極の目的=「ザ・ゴール」は、お金を稼ぐことです。しかしながら、既に成立している企業の多くの活動や管理指標は、えてしてその方向を向いていないのではないでしょうか。この本の主人公は、スループット会計という概念用いて実績をあげることで抵抗勢力に打ち勝ち、閉鎖予定だった工場を救いました。

製造業に従事していなくても、会社全体を見渡したときに、自分の仕事内容が本当に会社のゴールに近づくものか、常に考える必要があります。例えば、導入を検討しているITシステムは本当に会社の「ゴール」に近づくものなのか?自分が売るべき商品は、カキ氷なのか、それともパフェなのか?改めて、企業の究極の目的=キャッシュを生むことに対して、自分がどのような貢献ができるのか考えてみるよい機会になる本だと思います。

※スループット会計の事例 (ある喫茶店の例)

ある喫茶店でカキ氷とフルーツパフェを売っています。

価格から材料費を引いた粗利がカキ氷150円、フルーツパフェ450円とします。
また、作るのに必要な時間を、カキ氷は1分、フルーツパフェは5分とします。
従来の原価計算では人件費を生産時間に応じて製品毎に配賦します。時給600円とすると、配賦人件費はカキ氷は1品当たり10円、フルーツパフェは50円となります。

そうすると、1杯当たりの利益は、カキ氷が粗利の150円から10円を差し引いた140円。同様にフルーツパフェは400円です。原価計算では、フルーツパフェを薦めたほうが儲かりそうです。

これが、スループット会計では次のような計算になります。カキ氷は1時間当たり60杯、フルーツパフェは12杯作れます。1時間当たりの利益を計算すると、カキ氷は150円×60杯-600円=8,400円。同様に、フルーツパフェは4,800円になります。実際にはカキ氷のほうが儲かることが分かります。

これに対して、従来の原価計算では「キャッシュを生むスピード」という概念がありません。売り上げが不調でも、生産現場が稼働率を上げれば、製品1個当たりの固定費の配賦額が減るので原価が減り、利益拡大に貢献するとの錯覚に陥ってしまうのです。

粗利

所要時間

原価

1時間あたり
利益

カキ氷

150円

1分

140円

,400円

フルーツパフェ

450円

5分

400円

,800円