真実の瞬間

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【書籍データ】
書名:真実の瞬間(Moments of truth

著者:ヤン・カールソン
出版社:ダイヤモンド社
価格:1,325円




【要約・解説】 
本書『真実の瞬間』は、スウェーデンの国内航空会社リンネフリュ社の社長から、スカンジナビア航空の社長に就任したという経歴を持った、いわゆる航空会社の経営のプロであるヤン・カールソン氏の著名な書物である。出版されてから20年近くが経つ現在でも増刷がかけられている名著であり、ビジネス書の名著100にしばしば入れられる大ベストセラーである。

 

1980年に若くしてスカンジナビア航空の社長に就任したカールソン氏は、オイルショック後の航空業界が未曽有の不況の中に置かれていた時代に、スカンジナビア航空の業績をV字回復させた。その時の様子を物語調に描いたのが本書である。数時間もあれば読める簡単な書物であるため、ぜひ、一読をお勧めする。しかしながら、短い書物であるものの、著者が社長として打ち出した施策は多岐にわたることから、経営者を中心に、参考となる部分が多い。特に、その施策の中でもっとも多くのページを割かれているのは、本書のタイトルになっている『「真実の瞬間」を重要視すること』である。

著者は、航空券販売係や客室乗務員といった従業員の最初15秒間の接客態度が、その航空会社全体の印象を決めてしまう、と考えた。そのため、著者はその15秒を「真実の瞬間」と呼び、全従業員にその瞬間に注意を払うように徹底した。これは、「スカンジナビア航空を形成しているのは旅客機とかの有形資産の集積だけではない。もっと重要なのは、顧客に直接接する最前線の従業員が提供するサービスの質だ。(P5)」と考えていたためである。本書は、この「真実の瞬間」をいかに向上させるか、その施策を列挙した書籍である。

著者は、「真実の瞬間」をより有益なものにするに、企業ピラミットを崩して、規則にとらわれない意思決定を、顧客と直接接する従業員が下せるようにしなくてはならないと考えた。従来の仕組みでは、マニュアルどおりのことが起こらなかった場合、従業員は上層部の意思決定を待たなければならない。その無駄な時間が顧客にその企業に悪いイメージを植え付けてしまうためだ。

そのために、まずは、現場の従業員にできるだけの権限委譲をした。そして、どんなときも現場社員が自らの判断で顧客のためになる行動をすることが求められている、というメッセージを繰り返し送った。そして、なんらか誤った行動をとったとしても、それが顧客のためになると思って行動した場合には、その個人の評価を下げることはしなかった。

また、中間管理職の役割を変え、あくまでも現場のサポートをすることを最も重要なミッションとした。さらには、顧客をサポートする専門の部隊を整え、全社的に顧客を大切にする体制を整えた。

そのため、著者は、リーダーとは「自らすべての意思決定を行うというよりは、むしろ適正な企業環境をつくり出すことのできる人々をやる気にさせるオープンな経営者である(P51)」と考えた。顧客接点の多い従業員こそが、行うべき行動を知っており、経営者は、彼らをいかにやる気にさせるかが大切なことであると考えていた。

【我々の考察】 
本書は、サービス業に勤める者のバイブルのように言われている。確かに、1990年の書物でありながらも、今の世の中にも十分通用する理念が語られている。

ただし、ここでは、著者が行ったことの背景にある経営戦略について取り上げたい。

著者がSASの社長に就任した際にまず行ったことは、「既存顧客のセグメンテーション」である。

本書では、あまり触れられていないが、著者はすべての顧客に対するサービスを向上させようとしたわけではなく、「法人利用顧客」にターゲットを絞り、個人利用向けのサービスは、大幅にカットした。これは、自社に与える収益性を分析し、たとえ、他のセグメンテーションの顧客を失ったとしても、法人利用顧客の満足度を上げ、リテンションし、更に、他のエアラインの法人顧客を奪おうと考えたのである。そのため、座席クラスや価格体系をそれに合わせただけでなく、プロモーション方法、社内の品質管理基準、さらには、制服までも法人向けに変更したのである。
「意外なことだが、まず目標と戦略を立て、その後で事業環境と顧客ニーズを調査する経営者が多い。これは明らかに、手順が逆だ。事業環境や顧客ニーズを明確に把握していないで、何が有効な目標か戦略かわかるはずがない。(P59)」と著者は述べている。
サービス品質を向上させようとすると、多くの場合、すべての顧客の満足度を向上させなくては、とつい考えてしまいがちである。
しかし、本書を参考にすると、まず、自社が最も大切にすべき顧客を明確にしなくては、本当に提供すべきサービスは実現できない。
まずは、自社が最も大切にすべき顧客を特定する。その上で、自社のすべてをその顧客に合わせて変更していく、これが、最も成功する方法であると本書は述べている。

皆さんも、ぜひ、自社が大切にすべき顧客を特定するところから始めてもらいたい。

優れた戦略があってこその権限委譲なのである。

 

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