ゲーム理論の考え方の一つに、「ミニマックス戦略」があります。これは、「確実ではない勝利を求めるのではなく、確実な勝利を狙う。損失が出る場合は、できるだけ損失を少なくする」という手法です。「マックス(最大)の損失をミニ(最小)にする」ということから名前がつけられました。損失をできるだけ減らす、というのは、昔から言われていることです。投資の世界でもよく言われますし、ギャンブラーの世界でも、「勝とうと思うな、負けまいと思え」とよくいわれます。「ミニマックス戦略」はまさに、それと同じことを意味しています。
ただし、ビジネスにおいて、どんなときでも「ミニマックス」が通用するわけではありません。それでも、1対1の争いになった場合、相手はできるだけあなたの利益を最小化しよう、と挑んできます(これもまた、ミニマックス戦略です)。そのような戦いに挑まれた場合、ミニマックス戦略で立ち向かうことで、その戦いに勝利することが可能になります。
ミニマックス戦略を使う典型的な状況は「利益と損失が、相手と相殺されるゼロサムゲーム」の場合です。
では具体的にミニマックス戦略の利用例を説明していきます。
例)A社とB社はサッカーを題材とした出版社です。日本においては、サッカーをメインに扱っているのはA社とB社しか存在せず、日本ではサッカーファンを両社が取り合っている状況です。A社とB社は常に発行部数を増やそうと戦っています。
あなたはA社の社長です。過去の発行部数を調べていると、メインで取り扱うテーマによって、それぞれの両社の部数が決まることがわかりました。社長であるあなたは、どのようなテーマを設定するのが一番良いのか、検討を開始しました。
調べてみると、両社が国内サッカーを取り上げると、自社の売上は1万部アップすることがわかりました。一方、両社が海外サッカーを取り上げると、自社が3万部アップします。
また、相手と違うテーマを取り上げた場合、自社が国内サッカーを取り上げると、1万部アップ、自社だけが海外サッカーを取り扱うと2万部ダウンすることがわかりました。
このようなケースの場合、A社は国内、海外のどちらの分野を取り扱うべきでしょうか。
ミニマックスの戦略で考えると、A社は「国内サッカー」を選ぶべきです。
A社にとって最も部数を伸ばすのは、3万部のアップです。それは、両者が海外サッカーを取り上げた場合です。しかし、表をよく見てください。B社の側から考えると、国内サッカーを取り上げた方が、いつでも、部数が多い結果が出ます。そのため、B社は必ず、国内サッカーを取り上げます。だとすると、A社は国内サッカーを選択し、1万部のアップで我慢すべきです。この考え方が、「ミニマックス戦略」です。この例が示しているのは、「敵も自分の利益を最大化しようと努力している」ということです。その結果として、あなたも、「確実に収益を出す(損失を最小化する)」を目指すべきなのです。自分にとって最も有利な手は、なかなか使わせてもらえないのが、世の中の常なのです。
ただし、必ずしもミニマックス戦略が正しいわけでもありません。
では、もう少し複雑な例を出しましょう。
例)雑誌『NOW』と雑誌『Today』は日本を代表するスポーツ雑誌です。国内ではほぼ2つの雑誌しか存在せず、日本のスポーツマニアは毎月この2誌のどちらかを購入しています。雑誌『NOW』の編集長であるあなたは、特集するスポーツによって、雑誌の発行部数が変化することに気づきました。それぞれのパターンごとの増減が以下だった場合、雑誌『NOW』はどのテーマを扱うべきでしょうか。

この場合、あなたは、雑誌『NOW』でサッカーを特集するべきです。なぜなら、サッカーがミニマックスな手だからです。雑誌『Today』があなたの部数をできるだけ減らそうとしても、少なくとも、1割アップの利益が得られます。
『NOW』の立場をわかりやすく説明します。
まずは、野球とサッカーを比較します。この二つでは、相手がどんな特集を組んだとしても、いつでも『NOW』にとってはサッカーの方が有利です。そのため、雑誌『NOW』はどんなことがあっても、野球を選ぶことはありません。
また、雑誌「Today」側から見ると、どのケースでも、野球よりもサッカーの方が有利です。サッカーの選択が「優位な手」であると言えます。このようにして、優位でない手を交互に消していくと、ゲームの勝ち負けが見えてきます。このように他のすべてよりも有利な手「絶対優位」をまず見つけるが大切です。
上記の図から「絶対優位」ではない2つを除くと以下のとおりになります。

これ以上は、絶対優位な手は存在しません。ただし、打つべき手は決まります。「ミニマックス」な手です。相手がどちらを選んだとしても、確実にアップが期待できるのは、サッカーです。これにより、少なくとも、1割アップは確保出来ます。
ただし、いつでも、ミニマックスが正しいわけではありません。それは、複数回の行為を行う際に、選択する手段を変えることができるケースです。では、具体的に見ていきましょう。
例)今からPKを行います。あなたはキーパーです。キッカーが蹴る方向をまえもって予測することで、ボールを止められる確率が変わってきます。右に来ると予測して、実際に右に来ると、80%の確率でボールを止めることができます。左に来ると予測して、実際に左に来ると、30%の確率で止めることができます。一方、右を予測して左に来た場合は、全く止めることができませんが、左を予測して、右が来た場合は、10%の確率で止めることができます。表にすると、以下のとおりです。

このような状況下では、絶対優位の戦略は存在しません。いつでも、どちらかを予測した方が有利であるという状況ではありません。
一方、ミニマックス戦略では、「左を予測しろ」になります。たとえば、ピッチャーが直球と変化球を半分半分投げるとすると、ヒットを打つ確率は、2割になります。
(80%×0+0%×0)+(10%×0.5+30%×0.5)=0.2
ところが、右と左を半分半分予測するとどうなるでしょうか。
キッカーが右と左を半分半分蹴ったとすると、キーパーが止められるのは、3割になります。
(80%×0.25+0%×0.25)+(10%×0.25+30%×0.25)=0.3
そうすると、相手が半分半分の球を投げるのであれば、右と左を半々待った方が良いことになります。さらにいうと、相手が右と左を半分半分投げるのであれば、全球右を待つことで、止めれる確率は4割になります。(80%×0.5+0%×0.5)
ところが、実際には、キッカーは半分半分に蹴るわけではありません。
キッカーの側にたつと、キッカーは相手がどちらを待つのかわからないため、できるだけ確実に打たれない配分を考えます。実は、上記のケースでは、右を3割、左を7割で蹴ると、キーパーが止められる確率は一定になります。キッカーが右を3割、左を7割で蹴ると、キーパーがどのような配分でボールを待ったとしても、止められる確率は2割4分になります。
一方、キーパーの方は、右を2割、左を8割で待つと、結果としては、キッカーがどんな割合で蹴ってきたとしても、2割4分は守れることになります。
このように、相手がどのように動いたとしても変わりようのない点を「ナッシュ均衡点」と呼びます。ゲーム理論では、このように、「ナッシュ均衡点」を探し出すことで、損失を最小化し、利益を最大化することを目指します。
ただし、実際のビジネスでは、ここにとどまって良いわけではありません。実際のビジネスでは、
①成功の確率をあげる
②前もって、情報を集める
この2つによって結果は大きく異なります。
今回の例でいうと、「①成功の確率をあげる」とは、右、左のそれぞれの止められる確率をあげることです。もし、右と予測しても左のボールが止められるようになれば、確実に阻止率は向上します。
また、「②前もって、情報を集める」とは、キッカーのクセを見つけて、どちらに蹴るかを前もって知ることです。今回のケースでいうと、キッカーがどちらに蹴るかわかれば、止められる確率は格段に向上します。
ビジネスにおいても、ゲーム理論を活用して、最適な行動をとることももちろん重要ですが、それにとどまることなく、自己研鑽と情報収集に励みましょう。
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